早稲田大学演劇博物館「日活向島と新派映画の時代展」

演博で始まった「日活向島と新派映画の時代展」がすばらしい。
2009年の「新派展〜館蔵品でたどる新派百二十年の歴史」もそうだったが、演博には新派・新派映画関連資料が結構あるのだが、なかなか人目に触れる機会がない。個人的には資料のお蔵だしというだけでも大歓迎なので、今回のような企画には嬉しくなる。撮影技師・三浦光雄の写真アルバム、田中栄三が古川緑波へ宛てた『劇書ノート』返礼の手紙などマニアックなところまで手が届いているのがいい。村田実のデスマスクも展示されているし、ここはやはり(私が助手時代に企画して難色を示された)演博所蔵デスマスク展を開催して欲しくもある。岡田温司デスマスク』(岩波新書)という本も新書で出たことだし。また元助手として展示に携わった身としては2008年に生誕100年を迎えた「長谷川一夫展」や今年80周年を迎えた「前進座展」があれば嬉しかったが、なにぶん忙しい所なので、欲張りすぎは禁物だろう。

新派映画は、映画史、演劇史の両面から注目すべきジャンルだが、どうも世間も研究者も関心は今一つ。この展示を機会にその重要さと、何よりも面白さが少しでも多くの人に認知されれば良いと思う。

ムーラン・ルージュ新宿座関連では特設コーナーで小特集「美術監督 中村公彦」が開催されていることにも触れておきたい。戦後ムーランの舞台装置で業界入りした中村公彦氏(1916-2010)は、中江良夫『にしん場』をはじめ戦後ムーランの名作の舞台を数多く手掛け、ムーラン解散後は映画美術へ足場を移し、木下恵介川島雄三、今村昇平ら名監督に付き『二十四の瞳』『幕末太陽伝』『豚と軍艦』などの作品を担当した。映画美術を代表する人物だ。個人的には2007年の演博「古川ロッパとレヴュー時代展」に寄稿をお願いし、その後拙著『ムーラン・ルージュ新宿座――軽演劇の昭和小史』にもインタビューを掲載させていただいた。インタビューをしている時は、三菱関連企業、GHQ財閥解体組織を経て全く異なる演劇・映画界へと転職した中村氏が、日本の「戦後」を代表する名作映画の美術を次々と手掛けたという「人に歴史あり」な部分が実に面白かった。映画『ムーランルージュの青春』の模型などが新たに演博寄贈になったこともあり、この勢いでムーラン・ルージュ新宿座展開催までたどり着けたら万歳だ。

日活向島と新派映画の時代展
会期:2011年12月3日(土)〜2012年3月25日(日)
会場:早稲田大学演劇博物館2階企画展示室Ⅰ
http://www.waseda.jp/enpaku/special/2011nikkatsu.html