『ムーラン・ルージュ新宿座』書評 森彰英 「中日新聞・東京新聞」

中日新聞」「東京新聞」(2011年11月6日付)で森彰英氏に拙著『ムーラン・ルージュ新宿座――軽演劇の昭和小史』の書評「幻の劇場を生き生きと再現」をいただいた。
http://www.tokyo-np.co.jp/book/shohyo/shohyo2011110602.html

著者は活字によって、その〔ムーラン・ルージュの〕全体像を描くという困難な作業に挑戦した。わずかに現存する関係者を訪ね、回想録から当時の資料をくまなく集め、全体像をまとめあげた。早稲田大学演劇博物館勤務という恵まれた環境にあったが、さぞかし大変な仕事と察する。が、行間からその途上の楽しさが伝わってくる。

筆者の内心密かな悦びを指摘されて、これ以上ない嬉しさ。
また拙著の特徴として

 本書が演劇史、都市風俗史と違うのは次の二点にある。第一に、事実の深掘りの確かさである。第二に、複線的重層的な構成である。第一章では経営者の佐々木千里と初代文芸部長の島村龍三がともに浅草オペラからレビューなどを経て、少しずつ違った角度からムーラン創立に接近した事情が活写される。戦後は、軽演劇路線から生活の現実を描く路線へと方向転換したが当時、台頭したヌード・ショーと激突し、ついに共倒れし、終焉を迎えた過程も興味深い。
 副題は「軽演劇の昭和小史」だが、むしろ観客も含めて劇場に集まった人たちを描いた大河ノンフィクションに接した思いがする。一途に芝居を愛し、芸術的、世俗価値観には若干の温度差がある人たちが登場し、生き生きとした動きをみせるのが魅力的である。

大河ノンフィクション――400頁を超える著作を出したのも無駄ではなかった、とホッとします。ありがとうございました。