ふくすけ

久々の更新

『ふくすけ』松尾スズキ 作・演出
2012年8月22日(水)@シアターコクーン

初演(1991@ザ・スズナリ)は見逃したが、再演(1998@世田谷パブリックシアター)、そして今回の再々演を観劇する。
松尾スズキは再演時は人気作家だったが、今ではすっかり大物(?)となったからか、チケットの値段(オークションでは3万円のプレミアもついたとか)、出演者その他色々と豪華になっていた。
演出や舞台装置などは再演と同じだが、再演時は鉄骨組みにブラインドだった無機質な装置に色が付き廻り舞台になったことや、松尾スズキ演じる「男爵」の衣装、紫のガウンにくっついた2匹の猫などを見ていて、有名になるとはこいうことかぁ・・・・・・と妙に感慨深くなる。

再演時は役者のアングラ色が強くそこが作品の禍々しさを更に強めていたが、今回の再々演はそうした役者の個性は薄れ、その分、物語が前面に出た内容となっていた。
複数の物語がもつれ合いながら最後にはそれまでの混沌とした内容と漂うルサンチマンを一気にねじ伏せるようにして昇華する。再演の時はその力業のような演出に圧倒されたが、今十数年の時を経て再々演を見ると、実際はまとまった演出だったと改めて感心する。

阿部サダヲ丸くなったなぁ、とか、小松和重の役は予想できなかった、とか
古田新太が温和しい吃音症のおじさんで終わる筈がないのは観客も予想しているだろうし、これはミスキャストかなぁ、とか
平岩紙さんのアーンが良かった、とか
色々と思うところはあったが、どうしても学生時代に観た再演の印象が強くて、それ抜きの感想は難しい。
歌舞伎町が物語の象徴的舞台となっているが、現在の歌舞伎町が『ふくすけ』の主題を背負える街とはとても思えず、その一抹の寂しさに個人的な感傷も募った。
いやはや歳は取りたくない。

昼のマチネーということもあってか、高齢者、主婦とおぼしき奥様方が客席の大半を占め、夏休みだというのに学生の姿は少ない。一瞬、大人計画ではなく三谷幸喜を観に来たような気がした。
良きにつれ悪しきにつれまだまだ多感な時期の学生などに観て欲しいが、チケットが10,000円近いと学生も簡単には観ないか。チケットも全公演が数時間で完売したそうだし。
そういえば、学生時代の自分が大人計画サンシャインボーイズを観なくなった理由もチケットの取りにくさだった。
小ネタも松尾スズキの毒も終始ケラケラと笑っている奥様方が最も怖い、というのが今回の一番の感想かもしれない。

それでもカーテンコールでゴラン・ブレゴヴィッチのEderleziが流れると泣きそうに。本当に歳は取りたくないなぁ。泣き虫だなぁ。
『ふくすけ』は劇中曲がまた格好いい。
Voodoo Glow Skulls、ベートーベン、バーバー、ブレゴヴィッチ、どれも作品のイメージに合っていて強く耳に残る。
帰宅して調べると映画『ジプシーのとき』はDVD化されてないようだ。今だとタイトルは変更しなければ駄目なのだろうか。

Voodoo Glow Skulls - Brodie Johnson Weekend

Samuel Barber - Adagio for Strings

Ederlezi - Goran Bregovic