武田一義『さよならタマちゃん』

さよならタマちゃん (イブニングKC)

さよならタマちゃん (イブニングKC)

35歳、漫画家アシスタントによる精巣癌の闘病記。
約一年に及ぶ入院生活の殆どが抗がん剤治療で、抗がん剤治療がどのようなものかが詳しく描かれている。
可愛らしい絵柄で淡々と描かれる物語は非常に重いが、つい引き込まれて一気に読んでしまった。

また、共に漫画家を目指すもう若いとは言えなくなった夫婦が、日常の些細な事から諍いが増え、それがミックス犬「ビック」を飼うことで家庭としての穏やかな生活へと変わっていく話など、〈家族物〉としても読むことが出来る。

わずか単行本1冊の厚さが、現実的には1年間という時間の記録であり、それを描いて世に出るまでにリハビリを含めた長い時間が掛かったことを考えるととても貴重な一冊だ。
作者としてはこうした内容でのデビューは予定外で、もしかすると不本意なのかもしれないが、読者としては幸福な出逢いだ。

さよならタマちゃん』読後に読み直した本が二冊。
一冊目はエリザベス・キューブラーロス『ライフ・レッスン』。

ライフ・レッスン (角川文庫)

ライフ・レッスン (角川文庫)

精神科医ホスピス・ケアの第一人者であるキューブラーロスの著作は多く、彼女の個性的な思想と半生は自伝『人生は廻る輪のように』に顕れている。
自伝の破天荒な面白さに比べると、末期医療の経験を元に書かれた『ライフ・レッスン』や『死ぬ瞬間』等は(優れた本なのだが)どうしても啓蒙臭が個人的に馴染めないでいた。
とはいえ、やはり『さよならタマちゃん』のような死との葛藤に接すると先ず最初に思い浮かべてしまう。
我ながら凡庸な読書だなぁ・・・・・・老いたか。

二冊目は曽田秀彦『がん生活者の730日―2002‐2004』。

がん生活者の730日―2002‐2004

がん生活者の730日―2002‐2004

私の大学・大学院時代の恩師の胃癌闘病記録だが、この本の長所は治療に掛かる諸経費が記載されていることだ。
命の値段はどうしても気になるところだ。
抗がん剤治療から在宅ホスピスまで、曽田先生が病人だった730日の医療関連費の総支出は2,117,783円。
この金額には個人購入したサプリメントメシマコブの代金135万円も含む。
そしてこの本の短所は、曽田秀彦の個性があまり描かれていないことだ。

武田一義氏をはじめ、病に倒れた時にその人の性格が一番発揮されるのだろう。

明日は我が身のほーやれほ。